箱根駅伝のエースたちは、 なぜマラソンで活躍できないのか? [マラソン]

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6日のびわ湖毎日マラソンで、今年度の男子エリートマラソンランナーたちのシーズンは終わった(女子は13日の名古屋国際が残っている)。

 今季の主要大会は8月末に韓国・大邱(テグ)で開幕する世界陸上の代表選考レースでもあった。男女ともマラソンの代表枠は5。男子の内定基準は① 「広州アジア大会で日本人トップでメダル獲得」、②「福岡国際・東京・びわ湖の3レースで2時間9分29秒以内のタイムを出し日本人トップ」だ。

 ①は北岡幸浩(NTN)が銀メダルを獲って内定第1号になった。②の福岡国際は松宮隆行(コニカミノルタ)が日本人トップになったが、基準タイムがクリアできず内定者なし、東京は日本人トップの川内優輝(埼玉陸協)が2時間8分37秒で内定、びわ湖は日本人トップの堀端宏行(旭化成)が2時間9分 25秒と基準をギリギリでクリアし世界陸上代表キップを手にした。

 残る枠は2。おそらく福岡国際=日本人トップの松宮、内定対象レースではないが別府大分=2時間10分29秒のタイムで日本人トップになった前田和浩、東京=2時間9分03秒で日本人2位の尾田賢典(トヨタ自動車)、びわ湖=2時間9分31秒で日本人2位の中本健太郎(安川電機)の4人から選ばれることになるだろう。

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市民ランナー川内の熱い走りと 日本人1位の結果には誰もが驚いた

 内定した3人のなかで喝采を浴びたのが川内だ。公務員として高校で事務の仕事をしながら走っている市民ランナーで、練習にかかる費用や大会のエントリー代・交通費などはすべて自腹。こうした恵まれない環境にもかかわらず、内定基準タイムより1分近く速い堂々たる成績で日本代表になったのには誰もが驚いた。
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 走る姿も見る者を熱くさせるものがあった。6度のマラソン出場経験があるが、そのうち5回はゴール後に倒れ込み医務室に直行したという完全燃焼男。今回も42.195キロですべての力を使いきる走りを見せ感動を呼んだ。

アジア大会での北岡もタイムこそ2時間12分48秒と平凡だが、納得できる内定だ。34キロ付近で先頭集団から脱落したものの、あきらめずに粘りの走りを見せ、ゴール直前でカタールのシャミ選手(ケニア出身)を抜いたシーンは感動ものだった。

 しかし、もうひとりの内定者・堀端はギリギリの基準突破だったし、最後のびわ湖が終わってもまだ2枠の空きがあり、これといった候補者が浮かばないのも寂しい話。この辺が最近の日本男子マラソン界の低調ぶりを表している。

箱根OBの北岡と川内は 駅伝では目立たずマラソンで開花

ところで3人の内定者のうち北岡と川内は箱根駅伝経験者だ。北岡は東洋大で03年と05年の2回、川内は在籍した学習院大が予選会で敗退したため学連選抜で07年と09年の2回走っている。だが、目立つ活躍を見せたわけではない。

 そんな二人がマラソンでは快走を見せ、日本代表として世界陸上に出場する。箱根駅伝でエース級だったランナーたちは何をしているんだといいたくもなる。

 今季のレースに、世界陸上出場を目指した箱根ランナーとしては今井正人(トヨタ自動車九州)がいる。昨年末の福岡国際では30キロ付近まで先頭集団にいたが、その後脱落して5位。びわ湖でも37キロ付近までは保ったが、最後は失速して6位に終わった。

 川内も福岡国際には出場しており、この時は10位。だが、東京では快走を見せた。この3ヵ月ほどで大逆転をしたというわけだ。

 実は今井と川内は同じ年に箱根駅伝を走っている。07年の第83回大会である。今井は順天堂大の主将にしてエース。担当した5区山登りでは4分以上つけられた差を逆転しチームの総合優勝に貢献した。この大会を代表するヒーローである。

 川内が走ったのはその翌日の6区。区間順位は6位で、寄せ集めの学連選抜としては好成績だが、話題になるほどではなかった。箱根駅伝から4年が経ち、大ヒーローの今井を無名選手だった川内が追いつき追い越してしまったことになる。

もっとも今井はまだ26歳。練習を重ねレース経験を積めば、トップランナーに成長する可能性は十分ある。だが、箱根で区間記録を出したり、ごぼう抜きを演じて注目された選手で、卒業し実業団に入ると名前を聞かなくなったり、伸び悩むケースは多い。

“プロ”の選手が市民ランナーに 後れを取ってしまった理由

川内が東京マラソンで好記録を出した時、世間から「実業団の選手は恵まれた環境に甘えているのではないか」という声が出たが、そんなことはない。 “プロの”ランナーとして日々きつい練習を重ねている。それが原因で故障する選手も少なくない。ではなぜ、川内のような市民ランナーに後れをとってしまうのか。

 筆者の知人に箱根駅伝出場経験を持ち、現在は陸上長距離を中心に精力的に取材しているライターがいる。彼によれば「実業団チームの多くに、マラソンに挑戦しづらい空気がある」という。陸上部を持つ以上、大会では企業名をアピールしたい。そのためにはどうしても駅伝に力を注ぐことになるというのだ。

 ほとんどの長距離選手はマラソンへの挑戦意欲を持っている。だが、その希望をコーチに伝えても「マラソンは30歳近くになってからでいい」と言われることが多いらしい。また、マラソンに挑戦することになったとしても、「今のマラソンはスピードレースになっているから、10000メートルを27分台で走る実力が必要」と言われ、それを目標に練習を積む。が、なかなか目標をクリアできず挑戦のチャンスを逸することもあるそうだ。

 知人のライターはこう語る。

「レースを見ているとマラソンには適性があるとつくづく感じます。20キロまでは抜群のスピードを持っているのにそれ以上になると失速する選手もいる。30キロまでという選手もいる。逆に20キロのタイムは目立たなくても、42キロをペースを落とさずに走り切ってしまう選手もいます。

川内選手は10000メートルのベストが29分2秒。29分を切れない彼が2時間8分台で42キロを走ったんです。実業団にはそれぞれ独自の理論を持った指導者がいて、それに従って練習をするわけですが、理論にこだわり過ぎる傾向がある。距離適性は筋肉の質も関係するだろうし、代謝などの体質の違いもあるでしょう。でも、それは実際にマラソンを走ってみなければわからない。レース経験を積むことで、見えてくるものだと思います」

 それを実践したのが川内だということだ。実業団チームには行かず、個人で練習する道を選んだ。そして好きなマラソンにチャレンジし続けた。苦労も多いだろうが、そうした自由な環境に身を置いたことがかえって良かったのかもしれない。

「市民ランナー」川内優輝の世界陸上出場内定に実業団の選手たちも大きな刺激を受けたはずだ。走ってみなければ始まらないと挑戦意欲をかきたてられた選手も少なくないのではないか。

 これを機に日本男子マラソン界が沈滞ムードから脱することを期待したい。
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